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彼女がいなくなった次の朝から、トースターで焼いたパンにイエス・キリストの顔が浮き出るようになった。どのメーカーのパンでも、何枚切のパンでも、同じように焦げて顔が浮き出るので、トースターのせいだろうと思う。
トーストに、ジャムやマーガリンを塗りつけるとき、イエス・キリストは「マジで?!」というような表情になる。
僕はなんとなく気まずさを感じながらも、そのトースターを捨てる気にはならない。この部屋にあるものは、どんなものでも彼女との思い出の品なのだから。
パンを焼くたびに、「そろそろどう?」という顔で顕れる食パンのキリストに向かって、懺悔する気にはなれない。僕は彼女を失った痛みと、その重味を失いたくはなかったし、なによりも、彼女を差し置いて僕だけが赦されていいはずなんてないと思っているからだ。
もしここに浮かび上がるのが彼女の顔だったなら、僕は、心の底から赦しを請うだろう。
トーストに、ジャムやマーガリンを塗りつけるとき、イエス・キリストは「マジで?!」というような表情になる。
僕はなんとなく気まずさを感じながらも、そのトースターを捨てる気にはならない。この部屋にあるものは、どんなものでも彼女との思い出の品なのだから。
パンを焼くたびに、「そろそろどう?」という顔で顕れる食パンのキリストに向かって、懺悔する気にはなれない。僕は彼女を失った痛みと、その重味を失いたくはなかったし、なによりも、彼女を差し置いて僕だけが赦されていいはずなんてないと思っているからだ。
もしここに浮かび上がるのが彼女の顔だったなら、僕は、心の底から赦しを請うだろう。
ホラー
公開:18/07/29 11:23
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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