ある男の子の話

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昔むかし、台風を自在に操れる男の子がいました。

その子は運動が大嫌い。

運動会、川遊び、山登り、とにかく運動に関わる全ての日に、台風を呼んだのです。

そのおかげで、自分が嫌なことは、全部せずにすみました。

でもその子は大きくなってふと気づいたのです。

泳げない、走れない、山に登れない。

自然の中で必要な知識を何一つ知らない、できないことに気づきました。

彼には結婚する女性がいます。

子どもができたとき、その子に何を教えてあげられるのでしょう。

彼は後悔しました。

嫌なことは先延ばししたに過ぎなかったのだと。

彼は自分の能力を捨てました。

今はもう遅くとも、子どものために、教えてあげられることを増やそうと決意しました。

今でも彼は運動は苦手です。

だけど、毎日の運動で、日増しに力がついていくのが分かります。

それは、力を持っていたときより、ずっと幸福でした。
その他
公開:18/07/29 10:18

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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