お盆

6
63

「は?」
目を疑った。

ペンギンが歩いている。
何でもない、道の真ん中で。

「おいおい、どこから来たんだよ。」

混乱する僕の前で、そいつは無害そうに、こっちによちよちやってきた。

そして、翼なのか手なのかを持ち上げた。

「??」

固まる僕の前で、そいつもその格好のまま固まっていた。

が、疲れたのか一度広げたそれを降ろし、再度僕に向かって伸ばした。

威嚇ではない。何がしたいんだ。

動けないでいると、そいつはやれやれという風に僕に寄ってきて、くいくいと右手を上下に動かし、僕にしゃがむように要求した。

飛びかかってきたりしないかな。
恐る恐るしゃがんだ僕を、そいつはゆっくり両翼で包んできた。

そいつは温かくて、ふわふわしてて、そして何故か昔かいだことのある匂いがした。

頬を温かい粒が伝う。
幼少期の記憶。
これは母さんの匂いだ、と思い出した。

8月15日の出来事だった。
ファンタジー
公開:18/07/29 08:09
更新:18/07/30 00:02

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容