時におぼれる

彼は、時間を使うのがとても下手だった。彼のToDoリストはいつもいっぱいで、スケジュール帳には数分の余裕もなく、全てがギリギリ。時間が無くてもやりたい事を諦められず、寝る間も惜しんで乱暴に時間を使って生きていた。

しかし、疲れや焦りのせいなのか、彼はここ数日、やけに喉が乾き息苦しさを覚えていた。時々、塩辛い空気が口に入り込んできてむせるようになった。浮遊感がありフラフラとして歩きづらく、地に足がついていないようだった。

そんなある日、遂に彼は仕事中に呼吸困難で倒れてしまい、同僚が救急車を呼んだ。苦しそうにジタバタともがく彼に救命士が人工呼吸をすると、彼の口から大量の時間がゴボッと溢れ出した。

救命士は言った。
「時間の海に溺れたみたいですね。時間を利用する時には、余裕をもって、周りにも迷惑をかけないようによく注意して、そして何より自分の身の安全を第一に考えてくださいね。」