孵化するだし巻き卵

家庭科の授業で習ったからと、娘がだし巻き卵を作ってくれたが、完成したのは黒焦げの塊だった。

「ママお願い！インスタに上げたいからもう一回作らせて！」
「さっきので卵使い切っちゃったから無いよ」
「えー！そんなー！」

私は娘に提案した。
「さっきの焦げたのを孵化させたらいいんじゃない」
「孵化？」
「まあ見てなって」

大きなボウルに40度のお湯を張り、小さなボウルに黒い塊を入れて温め始めた。
すると5分ほどで黒い塊にヒビが入った。

娘は興味津々で孵化を見つめている。

ヒビは少しずつ大きくなり、30分後、中からつるんとした美しいだし巻き卵が出てきた。
「これを切ってインスタに上げれば？」
まな板の上に孵化しただし巻き卵を乗せた。
包丁を手にした娘は困った顔をしている。

「どうしたの」
「…だし巻き卵がかわいそう…」

それからというもの、娘はだし巻き卵を食べられなくなってしまった。