お母さんスプーン

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「スプーン屋?」
レストランと思って入ったら、本当にスプーンのお店だった。たくさんのスプーンにネームがついている。イタリア、日本、中国、なんだ?
「そのスプーンで食べると食べたものがその味になるのでございます。」
店主が説明した。
「はは、そんな馬鹿な。」
「ご試食なさってみますか。」
店主はスープをもってきた。イタリアンのスプーンで飲んでみる。チーズの味わいだ。日本スプーンで飲むと味噌汁の味がする。
「本当だ。これは面白い。」
「これは?」
お母さんと書かれたスプーンを指差した。
「母の手料理の味でございます。」
ああ、母の味だ。
「これはどんな味だろう」
隣にあったスプーンで一口。
「おぇえ。」
なんだ、あまりの不味さに吐きそうになる。
「これは何のスプーンだ。」
店主は申し訳なさそうに耳打ちした。
「それは妻スプーンでございます。」
僕は絶望的な気持ちで隣で微笑む婚約者を見た。
ファンタジー
公開:18/05/18 17:39
更新:18/05/20 22:22

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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