母なる海と深海の天使

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ゆらゆらと海中に漂うそれが、まるで天使のように思えた。見慣れたはずなのに、今でも時々、神秘的に感じる光景だった。

時間になり、俺は海から球状の、人工子宮器を回収した。そして胎児が成長するための栄養が詰まったボトルを交換する。この作業をこれから約3時間ほど、100人分行うのが俺の基本業務だ。

海流により、人工子宮は母体のそれと同様に揺られる。なにより、地上の汚染もこの深さまでは届かない。だから、子供はここでつくられることになった。

仲間には当たりの仕事だと言われた。しかし、他に人間のいない施設だ。安全ではあるが、孤独だった。まぁ、子供らもだいぶ、人間の形になったのだが。

「すまねぇな」
作業しながら呟く。俺たちはそう遠くないうちに汚染で死ぬ。文明再興の任はこの子達に課せられたのだった。それを知ったとき、彼らはどう思うのだろう。
漂う様だけでなく、その表情もまた、天使のような彼らは。
SF
公開:18/05/16 18:27
更新:18/05/16 18:41

sakana

ショートショート好きです
学生やってます。

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