彼女と和傘

4
128

彼女とはよく海に釣りに出かけた。だけど釣りをするのは僕だけで、彼女は静かに座っているだけだった。

そのとき彼女はいつも和傘をさしていた。桜の花がうっすらと浮かぶ白の和傘。それをさすのは僕と釣りに行くときだけで、いつも体育座りのまま、和傘を右肩にかけて遠くの海を見つめていた。

退屈だろうと一度彼女の釣り竿を用意したことがある。でも私の釣り竿はこれだからと、やさしく微笑み和傘をさした。

結局彼女は一度も釣りをしなかったけど、僕はそんな時間が好きだった。和傘をさす彼女をとても愛おしく思った。

しかし、それは長くは続かなかった。彼女は突然いなくなった。余りに突然、何も語らず、一本の和傘だけを残して。

それ以来、僕は釣りに行かなくなり、和傘も開かれることはなかった。

あれから3年。もう開くことのない和傘は僕の部屋の片隅で、今でもあの日の海辺のように、釣り竿と一緒に静かに並んでいる。
恋愛
公開:18/05/14 21:17
更新:18/05/15 00:41

数理十九

第27回ゆきのまち幻想文学賞「大湊ホテル」入選
第28回ゆきのまち幻想文学賞「永下のトンネル」長編佳作
一期一会。
気の向くままに書いては、読んで、コメントしています。
特に数学・物理系のショートショートにはすぐに化学反応(?)します。
ガチの数学ショートショートを投稿したいのですが、数式が打てない…
書こうと考えてもダメで、ふと閃いたら書けるタイプ。
最近は定期投稿できてないですが、アイデアたまったら気ままに出没します。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容