兎泳海

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「ぇ?月にも海があるの?」
まだ幼かった私は祖母の膝の上で丸くした瞳を夜空に投げた。
あれは十五夜だったと思う。お団子の味とススキを覚えている。銀色に輝くまん丸の月は今にでも屋根に落ちてきそうなほど大きかった。
「そうよ。兎が泳いでいるのよ」と祖母は微笑んだ。
「どうして知ってるの?」
「おばあちゃんは月で生まれたからよ」
「へーすごい」

大人になり月には水どころか空気もないと知った。そして約38万キロ離れていることも。
でもだからといって祖母を嘘つき呼ばわりしたりはしない。その夢のある話のお陰で私は宇宙飛行士を目指したのだから。
そして私は日本初の有人月探査計画の一員として月面の海に降り立った。
やっぱり水はなかった。でも…
「ね?泳いでみる?」
今回実験動物として一羽の兎が帯同していた。
私は今にも頭上に落ちてきそうな青い地球を見上げ、呟いた。
…おばあちゃん。兎、ここにいるよ…
ファンタジー
公開:18/05/15 23:52
更新:18/05/31 23:09

Kato( 愛知県 )

ヘルシェイク矢野のことを考えてたりします
でも生粋の秦佐和子さん推しです

名作絵画ショートショートコンテスト
「探し物は北オーストリアのどこかに…」入選

働きたい会社ショートショートコンテスト
「チェアー効果」入選

ありがとうございます

 

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