刺繍

1
131

男の夢枕に女が立つ。白い服を着たその女は、男の枕辺で黙々と刺繍をしている。男は布団に寝ているはずなのに、女の気配を感じている。起き上がったり動いてはいないのに、女の手元を覗き込んでいる。
男は何日かその刺繍女の夢を見続けていた。はじめはまっさらな白い布地だったのが、近頃刺繍は完成間近だった。だが目覚めると、刺繍の柄ははっきり思い出せなかった。
刺繍女の夢を見るようになってから男の生活に変化が現れた。日に何回も、胸がちくちくと痛むようになった。また男が運転するタクシー内で人に眉をひそめられることが増えた。病院に行ったが原因は特定せず、医者は眉をひそめ不審がった。

刺繍が完成し女がはじめて顔を上げた。その顔に男は見覚えがあった。逃げようにも体は動かない。「轢き逃げした恨みだ」女は呟く。

近隣の住人が異臭を訴えて男の遺体は発見された。遺体には既に、男の名前が刺繍された白布がかかっていた。
ホラー
公開:18/05/15 21:27

砂塵

読んでいただきありがとうございます。
話のおもしろさ云々はひとまず置いといて、とりあえず一本完結させることを重視して書いてます。
朗読ラジオ「月の音色リスナー」です(^o^)/
低浮上中なのでコメント返し遅れるかもですが必ずお返しします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容