火の海

その日、海は火の海になった
海底火山が爆発し、水面までドロドロの溶岩が浮き上がって来たのだ
周りを泳いでいた魚たちは熱にやられ、煮魚や焼き魚になった。
空を飛んでいた鳥たちはこんがり狐色の焼き鳥になった
砂浜を走っていた自動車は火の車になった
海を漂流するうどん入りの鍋は鍋焼きうどんになった
誰かが海に捨てた恋心は、すき焼きになった
蚤の市で売られていた安物の壺は、九谷焼、備前焼、有田焼になった。
海を泳いでいた老人は、油断した。俺もとうとう焼きが回ったかと死の間際に呟いた
一枚の写真は青焼きになり、何枚も焼き増しされた
恋する少女の感情は焼きもちになった
近隣の水田は野焼きになり、お米はチャーハンになった
牧場の豚、牛、ヒツジは、それぞれチャーシュー、ローストビーフ、ジンギスカンになった
印鑑は焼き印になった
火葬場では幾つもの遺骨が発見された
食堂の火曜日の定食のおかずは卵焼きになった