海はいいなあ

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昔から、嫌なことがあると海岸へ来て海を眺めるのが常だった。
寄せては返す波の音をぼんやりと聞きながら潮風を頬に受けていると、辛いことも悲しいことも洗い流されていくような気持ちになる。
「お前はいいなぁ、そうやってただザブーン、ザブンと悠然としていればいいんだからさ…」
俺は投げやりな調子で海に向かってそう呟いた。

すると突然どこかから、
「おい、あんた一体何を言っているんだ」という声が聞こえてきた。
「世界中にいくつ海があると思っているんだ。太平洋、大西洋、日本海に地中海。
マイナーなところでは、サルガッソ海にカラ海なんてのもある。
これらの海を統率して規則正しく波を立たせるのが、どんなに大変なことか分かっているのか。
人の気も知らずにいい気なものだ」

――どうやら、海の機嫌を損ねてしまったらしい。
心持ち荒くなった波の飛沫を眺めながら、俺は小さな声で、
「スミマセン…」とつぶやいた。
ファンタジー
公開:18/05/12 15:24
更新:18/05/12 15:26

幸田かなえ

ショートショート講座への参加をきっかけに、登録させて頂きました。

子供のころからショートショートの大ファン。
文章は、書くのも読むのも大好きです。

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