歪塊

ゴトン。

深夜。アパートの隣人宅を隔てた壁から、ボールを転がすような音が聞こえてくる。
隣は確か、母子家庭の母と息子が住んでいる部屋だ。こんな時間に迷惑な話である。

その日を境に、あのゴトンという物音が頻繁に続き、疲労の苛立ちから、怒鳴りこんでやろうと隣のインターホンを連打した。反応がないことに苛立っていると、カチャン、と向こう側で解錠する音がする。ドアノブを引くと誰もいない。玄関に入ると腐敗したような臭いが鼻をつく。

「おい、いるんなら出てこいよ！」

廊下の奥左にある部屋からドアがスッと開いたようだ。しかし暗闇でよく見えない。

ゴトン、ゴトン、ゴトン。

なにかボールのような黒い塊が、歪な回転をして転がってくる。
塊はピタリと足元で止まった。
「ひっ！」
その女である腐敗した首は、ゆっくりと顔をこちらに向け、閉じていた瞼をカッと開いた。

隣人の行方は未だ知らない。