五月の怪

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五月は爽やかというけれど、今日はじっとりと蒸し暑い。不愉快な湿り気を感じながら、僕は赤坂の豊川稲荷に急いでいた。
皇居外堀の水ですら、生温く不穏な中、今日はたしかにその日なのです。
これから何が始まるかって?これから始まることは他言無用なのですよ。
豊川稲荷はオフィス街にあって、それはそれは鬱蒼とした異空間なのです。
薄暗い鎮守の森に揺らめくロウソク。
おびただしい数の狐、狐、狐。
あれ、ここは、もしや、冥土に迷い込んだのでは?と、キッと気を引き締めねば、あちら側に引っ張られてしまいかねない。
僕はたくさんの狐を前にしてポンと一つ柏手を打つ。
ゆらゆらと漂う気配は、幼い頃に見た記憶があるような、無いような。
そうだ、記憶なんて曖昧で、現実なんてこんなに不可思議だ。
で、何が始まるかって?それはあなた自身が実際にここに来て、体験するしか無いわけですよ。
なんせ、他言無用なわけですから。
ファンタジー
公開:18/05/11 18:21

吉田吉( 千葉 )

田丸先生の講座を受講したことをきっかけに、ショートショートを書き始めました。表現するのは楽しいですね。末永く、書き続けていくのが今の目標です。
 

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