ノルマ

「キミのノルマは31,390だ」
なんのノルマですか？
「朝を迎えるノルマだ」
朝。ということは86年ということですか。それは僕の寿命ですか？
「そういう言い方もできるが、わたしたちはノルマと呼んでいる」
なぜ、ノルマなんですか？
「楽しい日々だけではない。辛くて朝にならなければよいと思うときもある。もがき苦しんでいるときでも朝を迎えなければならない。だからノルマだ」
朝を迎えなければ寿命は減らないということですか？
「そういうことになる」
ならば。

わたしは世界旅行に出ることにした。時差を利用し、夜出発して夜到着する旅を延々続けた。
たまにうまくいかず朝を迎えてしまうことがあるが、格段に少ない回数だ。
おかげでかなり寿命が延びた。

残念なのは、毎年恒例だった初日の出を拝めなくなったことだ。富士山頂からみるご来光は美しかったな。そんなことを懐かしみながら夜のフライトを続けている。