置いてきぼり

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ブラックインクの海に砕いたガラスを撒いたみたいに、
夜空の星がジャリジャリと瞬く。

その中のひとつが、不意にふるふると揺れた。
ハッとして思わず両手を広げる。
こぼれ落ちて来た星を懐に受け止めると、鋭い痛みが走った。
私は胸をおさえその場にうずくまる。

……るーん……、るーん……。
やがて耳の奥で、水をはったグラスの縁を、指でなぞったような音が鳴り始めた。
るーん、るーん、るらーん……。
音は重なり、どんどんふくらんでゆく。
星々の奏でる音楽にこの身がほどけ、
彼らと混ざり合った気がして、私は痛みを忘れた。

この星、連れて帰ろう。

そう思った瞬間、痛みが鮮烈に蘇った。
懐をのぞき込むと、星は怒ったように閃光を放ちプイッと空へ帰って行った。

立ち尽くす私に胸の傷だけ残して。

指先をぺろりと舐めて傷に滲んだ血を拭う。
こんなもの唾つけときゃ治るんだ、
と、多分涙声の私が言った。
ファンタジー
公開:18/05/10 23:49

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