夜にクルージング

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波の音が聞こえて来た時、私は「またか」とガッカリした。
少なくともそれまでは彼に対して、面白い男だと興味と共に好意を抱いていたからだ。
男というのはどうしてこうも女を海か夜景の見える場所に誘いたがるのだろう。
着いたのはやはり季節外れの海岸だった。
彼は人差し指を唇に当てる仕草で人気のない岩場へと誘ったが、私の気持ちはすっかり萎えていた。
ところが、どうせ花でも用意してるんでしょという予想は簡単に裏切られた。
隠されていたのは得体の知れない銀色の金属の光る塊。
「何?これ」
「船だよ。君とクルージングをしようと思ってさ」
彼は微笑むと、私を船内へと迎え入れた。
向かったのは、海は海でもどこまでも広がる星の海。
退屈を光速で振り切って、宇宙飛ぶ船は無限の大海原を進む。
「ねえ。もしかしてあなたって」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
だって彼の正体なんて、そんなのもうどうだっていい。


 
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公開:18/05/08 23:19

堀真潮

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