夢風船

0
115

「君、風船はどうかね。」
深夜、仕事帰りの青年に風船売りの老人が声をかけた。
「風船だって?おれが風船を欲しがるような年齢に見えるのか?」
青年はくたびれた様子で聞き返したが、老人はにこにこして答えた。
「そうさ。あんたは新しい風船を欲しがっている。今持ってる風船を見てごらんよ。」
気がつくと青年の左手には通勤鞄ではなく、割れて萎んだ風船が握られていた。
青年は驚いた様子だったが、老人は話を続けた。
「よし、風船を今でも大事に持ってるいい子には特別にこれをあげよう。」
老人は風船を一つすくい、さっと空にかざした。
青年ははっと息をのんだ。
深い藍色の風船は、きらきら光る星空にすうっと溶け込んでいくようだった。
空を見上げなくなって、どれくらいだろう。
青年は老人に礼を言うと、足早に帰路についた。

その夜、青年は久し振りに夢を見た。
幼い頃に毎晩見た、宇宙飛行士になる夢だった。
ファンタジー
公開:18/05/06 23:11
更新:18/05/07 08:14

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容