ナミダ・シンドローム

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ある人たちの間で、涙やくしゃみが止まらなくなるという症状が流行した。
花粉症との最大の違いは、流れる涙の成分が海水のものと酷似していることだった。
発症者の症状は悪化し続け、日に何リットルもの涙を流したり、くしゃみと一緒に深海魚を吐き出してしまうこともあった。各国政府や国際機関は懸命に働いたが、本物の海水が彼らの目や口を通って溢れ出していることがはっきりしただけだった。原因不明のまま、ナミダ・シンドロームと名付けられた症状は自然になくなった。これらの症状は火星移住者の間だけで流行し、地球の海水をすべて火星へ運んでしまったのだ。
干上がりきった海を見て、地球人たちが呆然と涙を流すとき、それはまた延々止まらず、海水の塩辛さだった。人々はとめどない涙にたゆたいながら、滲んだ星々を見つめ考える。これは今回限りの神さまの悪戯なのか、それともこの先、永遠に付き合わねばならぬ、新たな宿命なのか、と。
SF
公開:18/05/06 20:05
更新:18/05/06 20:06

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