親友

さすがにここまで来ると緊張するな……甲子園決勝9回ツーアウト。あと一人抑えれば優勝だ。
　僕はマウンドに立っているピッチャーに、落ち着け、とサインを送った。次は外角ストレートで三振だ。ここに来い。
　流れる汗にくもった眼鏡をマスク越しの手で拭う。この汗も暑いからなのか、緊張しているからか、など分かるはずもない。ただ、あと一つアウトを取るだけだ。
　だが、ボールは大きく外れた。僕はタイムを取り、マウンドへ駆け寄った。
　彼は一人ぽつんとマウンドに立っていた。でも、野球は一人でやるもんじゃない。こういう時にかける言葉は一つだけだ。
　「おい磯野、野球しようぜ」