午前中の男

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「午前中しか生きられないんですが」

心の相談窓口に青年が深刻な顔で入って来た。

「具体的に言うと?」
「午前九時から十二時の間でしか起きてられないんです。その後は死んだように寝てしまいます」
「何でそうなったの?」
「分からないです。いつの間にか……」
「両親は?」
「普通です」
私は曇った眼鏡を外した。最近疲れているのだろうか。
「先生、聞いて下さい。僕にはやりたい事があります。午後の紅茶がどんな味をするのか、夜桜がどんなに綺麗か、自分で感じたいんです」
「そうは言っても原因がね」
「先生!! あっ、もう時間ですね。僕はこれで失礼します」
午前中の男は身支度を急ぎ、帰り際に呟いた。
「妻は午後しか生きられません。どうすればいいんですか?」
その他
公開:18/05/07 15:59
更新:18/05/13 21:42

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