海の一滴

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 最後の海の一滴は、盲目の人魚に
もう一度光と色と形を与えた。
 しかし、海のない世界を目の当たりにした
人魚は悲しみに涙を流し、砂の上にたまり
そこに風が運んだ綿毛の先に付いた種が落ちる。
 やがて種は芽吹き、光を浴びて花を咲かせ、
香りを振りまくと蜂が誘われ、蜜を味わい
花粉をまとい飛び立つが、辺りに他の花は
見つからないので蜂は泣きだす。
 蜂が泣いていると人魚がやってきて覗き込む
から刺してしまう。目を刺された人魚は痛みに叫ぶ。
 しかし、人魚の声は誰にも聞こえずただどこか
には届いて辺りから水が満ちた。
 こうして最後の海の一滴は片目の人魚を浸して
新しい海になった。
ファンタジー
公開:18/05/04 23:45

たかはし

プチコン花の15編のひとつに
選んで頂きました。
 

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