海の瞳

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「君の瞳は濃藍色だね。まるで深海みたい」
「そう?綺麗?」
「うん、凄く・・・ねぇ、まだ憶えている?幼い頃、僕が一人この浜辺に来て」
海を、それから星空を見上げた後、再び視線を彼女に戻す。彼女はずっと僕を見つめていたらしく、吸い込まれる様に目が合った。
「憶えているわ」
その美しさに、暫し呼吸すら忘れる。
「・・・あの頃はこの近くに住んでいて。こっそり夜中抜け出してさ」
「貴方は夢中になって遊んでいて海に飛び込んでしまった」
「そう。でも、君が現れて僕を助けてくれてんだよ」
不意に彼女の唇が僕の頬に触れた。
「あ・・・」
「私は海の精霊よ。やるべき事をやっただけ。でも、せっかく助けたんだから貴方に少しでも生きていて良かったと思って欲しいわ」

はっと目が覚める。海岸でいつの間にか眠っていたらしい。
「・・・帰るか」
帰りの電車賃は持っていない。歩いて帰る他ないが、しかし、足取りは軽かった。
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公開:18/05/05 21:41
更新:19/10/06 19:36

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