空飛ぶ海

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海が空を飛んで、十年が経った。
川は空中を滑り、滝は逆さまに吸い込まれていく。ペンギンは遂に空を泳ぎ、鳥は地上に落っこちた。
喉が渇いたら空にストローを突き刺せば良い。しょっぱいけど、そのくらいが美味しい。お腹が空いたら空に銃口を向ければよい。何かしらの魚は捕れる。
海水にゆらゆらと屈折した太陽の光が心地よかった。

海が空を飛んで、百年が経った。
ある日、海が卵を産んだ。そこから大量の水が孵化すると、地上にいた生き物は溺れ苦しみ、多くが死んだ。今度のノアの箱舟は、全部がポリ塩化ビニルでできていた。
このとき、新しい生物が多く誕生した。人間もそのうちの一つである。
彼らは空の魚を鳥と呼び、地上の海に適応した鳥をペンギンと呼んだ。空から滴る水を雨と呼び、無味無臭だと言ってごくごく飲んだ。地上の海水のが、よほどしょっぱかったからだ。

これが、人間の涙がしょっぱい所以である。
ファンタジー
公開:18/05/01 21:45

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