時空混濁

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俺は自分の身分証を取り出した。
貼り付けられた写真には、佐藤と記されている。
「俺の名は佐藤──まだ俺は、俺で在るようだ」

ことの始まりは、違法であるはずの「時間旅行」が若者の間で大流行したことによる。
対応の遅い政府が時空警察を発足し、取り締まりを強化した頃にはもはや手遅れ。そこいらじゅうに「親殺しのパラドックス」の痕跡が見つかった。
専門家の意見では、彼らの行った多くの歴史的矛盾は「パラレルワールドが発生して自然に解決する」はずだった。
だが、時間を弄ぶということは、そんな都合のよいものではなかったのだ。

しばらくすると「時空混濁」が現れた。
いままで在ったはずの建物が消え、居たはずの人々は消え、あるいは別の人物に置き替わり、人々の記憶さえも混濁しはじめた──。

俺は自分の存在を確かめるため、再び身分証を取り出した。
「やれやれ、今の所まだ俺は、俺で在るようだ。俺の名は鈴木──」
SF
公開:18/04/29 01:05
更新:18/05/30 15:15
タイムマシン パラドックス タイムトラベル

渋谷獏( 東京 )

渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。
https://twitter.com/ShaTapirus

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