雨やどかり

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雨粒がわたしのつむじを突然叩いたかと思うと、一気に雨が降ってきた。
慌ててカバンを探るが、傘がない。デートに浮かれて忘れてきてしまったらしい。
「雨やどりしようか」
彼が優しく提案した。でも、建物は見当たらない。すると彼は 、おもむろに小さな巻貝を取り出した。宙にぽーんと投げたかと思うと、貝はくるくる回りながらみるみる大きくなった。
「せまいけど、我慢して」
彼はわたしを貝の中へと案内した。人がやっと2人収まる広さで、わたし達は肩を寄せ合った。
「雨やどかり、って言うんだよ」
普段から不思議なものが好きな彼だけど、こんなものまで持ってるとは。
しばらくすると雨は止み、空には虹が出ていた。

数ヶ月後、また雨に出くわした。
彼が得意げに取り出したのは、前と違う貝だった。
「宿替えしたんだ。今度は2人の体に合うように」
わたしは笑った。
「本物のやどかりみたい」
ファンタジー
公開:18/04/28 09:15
更新:18/04/28 10:07

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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