護身術

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夕闇に街灯が不規則に点滅し、人気のない道路にはタバコの吸い殻やいかがわしいチラシが散乱していた。
(近道なんかやめておけばよかった……)
理絵は自分の目測の甘さを悔やんだ。バイトの帰り、電車賃を浮かそうとあてずっぽうに裏道へ入ったが、駅は一向に見えてこない。
(乾先輩が一緒にいてくれたらなぁ)
片思い中の大学の先輩を想った、その時だった。前方に男と思しき人影が現れた。こちらへ歩いてくる。理絵は足がすくんだ。絡まれるかもしれない。でも逃げればきっと追いかけられる。一体どうすれば――。

そうだ、目には目を、変態には変態を、だ。
理絵は顔を上げると、全力で頭を掻きむしりながら、四股を踏むかの如くガニ股で歩き始めた。
すれ違いざま、影が立ち止まりこちらを見た。
(こっち見んな!)
理絵は怒りを込めて一層強く頭を掻きむしりキッと影を睨んだ。

その瞬間、背筋が凍った。
「い……乾先輩……」
その他
公開:18/04/28 01:22

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