恋の淵

6
130

彼と出会ったのは私がシャチに囲まれていた時だった。
突然現れ体当たりでシャチを追い払うと「大丈夫?」と私に訊いた。

私たちはすごく気が合って、互いの共通点に気付くたび、宝物を見つけたみたいにはしゃいだ。
あまりにも自然に心が触れ合ってしまったものだから、私は自分でも信じられないほど無防備に、彼を好きになった。

でもどうしようもない。私はアシカで、彼はクジラだもの。

私に会いに来るたびに浅瀬の岩が彼の身体を傷つける。
彼について深く潜ると私は気を失って、
朦朧としながら、淵に沈む私たちの恋を見た。

今日も水平線に彼の吹き上げる潮が見える。
会いに来たよ――。

私は砂浜を走り出て、彼目がけて懸命に泳ぐ。
なるべく彼が傷つかなくて済むように。
こんな傷何でもないよと、彼が隠さずに済むように。

この海のどこにも、ずっとふたりで居られる場所はないと知りながら、
ただ輝く潮だけを見ていた。
ファンタジー
公開:18/04/29 19:31

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容