海が読んでいる

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あっ、海が読んでいる。私が海岸に置き忘れてきた日記を。返して貰って来るわ。あの懐かしい声には心当たりがあるの
そう言って妻はどこかへ出かけて行った
私は長い付き合いから妻の心を読み取り、ああ、行っておいでと笑顔で送り出してあげた
翌日、妻は朝帰りをした
出掛ける時にはしていなかった白い化粧を顔に塗り、唇には紅を刺していた。さらには妻の側に若い青年も立っていた。私は流石に動揺を隠せなかった。青年は私に申し訳なさそうに一冊の日記を差し出した。私は空気を読み、ああ、そういう事ですかとその日記を懐に入れた。青年が去った後、私はしばらく呆然としていた

葬儀の後、私は妻の日記を読んで衝撃の事実を知った
妻は不治の病だったらしい。病名は人魚病。定期的に海に潜らないと体中から膿が出て腐敗してしまう病気だ。妻の寿命はもう秒読み状態だったらしい。道理であんなにも呼吸が苦しそうだった訳だ。えら呼吸なんだから
公開:18/04/25 21:32
更新:18/04/26 11:24

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