海を目指す旅路

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「海が見たい」
彼女は口癖のようにそう話す。
地球が滅び、人類が宇宙コロニーで生活するようになって数千年。山や森は人の手で作れても、海だけは作ることが出来なかった。
過去の映像で見る美しい海。それを見て、今日も彼女は悲しそうにそう呟いた。
「この本を見て。涙って人間が作る世界で一番小さな海なんだって。海がないなら僕が作り出すよ。これから僕が流す涙は君だけのものだ。君が海が見たいというのなら、僕はこの涙を本物の海にしてみせる」
僕の言葉に彼女は「バカじゃない」と笑った。久しぶりに彼女の笑顔を見た。
「私が見たいのは大きな海。かつて地球にあったと言われるあの海よ。あなた一人の涙で作り出せるわけないじゃない」
もっともだ。
「だから…私も協力してあげる。私だけじゃない。私達の子供達にも協力してもらおう」
彼女は僕の手を取って、その目を輝かせた。
僕達はこれからあの海を目指す。星の海の下で誓った。
公開:18/04/25 18:58
更新:18/05/04 19:09

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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