あれは確かに愛だった

2
140

無人の祖父の家にある枯れた古井戸。そこに釣糸を垂らすのが、私の唯一の楽しみだった。

始めてから3日目、初めて大きな当たりが来た。今まで釣れた物といえば、壊れた傘だけ。どんな大物かと勢いよく引き上げる。
と、それは水だった。
針の先にぶら下がる、顔ほどの液体の球。地面に置けば、それはどんどん吸われていった。
私が慌てて風呂釜へと放り込と、それはパシャりと球体を解き、美しい女へと姿を変えた。
女はゆらゆらと輝き、見惚れる私に口づける。口の中が塩辛く、彼女が海水だとこの時知った。
数刻もせずに女は私との子を身籠り、そして鯛を産んだ。それはとても甘かった。
女はそれからも口付けては沢山の子供を産み、私はそれを食べ続けた。

ある日、誰かの声がした。
女は慌て、小さくなりながらも井戸の中へと帰っていった。夫以外に姿を見せてはいけないらしい。

土砂崩れで隔離されてから、2か月経った日の事だった。
恋愛
公開:18/04/25 18:30
更新:18/05/04 03:48

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容