クジラと爆雷

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「離れろ。巻き添えになるぞ」
沈みゆく爆雷に一頭のクジラがついてきた。
「敵潜水艦を木っ端微塵にしてやるつもりだったのに。よりによって僕が不発弾だとは」
ドラム缶に炸薬を目一杯詰め込んだ爆雷は、悔しそうにその身を歪めた。それを見てクジラは言った。
「私が上まで運んであげる。もう一度やればいいじゃない」
「無駄だよ。このまま沈んでいずれ水圧で破裂する。君は遠くに逃げろ」
クジラは言うことがわからない。爆雷の周りをくるくると泳ぎ、全身で支えてみるが、それはあまりに重かった。
「持ち上がらない」
「無理さ。500kgあるんだ」
クジラは信じられなかった。今まで動かせなかったものなどない。爆雷の下から何度も背や頭で突き上げ、あたりは血で染まった。
「もうやめろ」
叫んだ爆雷の体が大きくへしゃげた。クジラはやめなかったが、ついに彼らは互いを救うことはできなかった。
海底近く、ズシンと地響きが轟いた。
ファンタジー
公開:18/04/24 03:30
更新:20/05/20 15:39

射矢らた( 大阪 )

2018年2月8日SSG登録
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<三姉妹シリーズ>
親もとを離れて暮らす三姉妹の暮らしを
ショートショートで綴ります。
長女・葵(あおい) 社会人
次女・茜(あかね) 高校生
三女・翠(みどり) 小学生

そのほか1話モノ。
 

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