漂ふかもめ

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かもめは言った。
「君は体も心も広いね。ころころ変わる表情も愛らしい。いつか君色に染められてみたいな」
海は頬を赤らめ、じゃぷんと波を立てる。かもめはしぶきを上手に避けた。
「そろそろ行かなくちゃ。また会いに来るよ」
翼をばさりと広げ、天高く飛んでゆく。向かうは晴天の空。
「やあ、今日も相変わらず美しいね。青二才のぼくにとって、君はまさに「あまつそら」の存在だよ」
空は雲で顔を覆い、照れ隠しをした。
「照れないでよ。いや、照れてくれ、と言うべきか。君の笑顔はとても温かいんだ。その笑顔で、ぼくを君色に染めておくれ」
かもめは巧みな話術で、海も空も虜にしていた。どちらかなんて決められない、キザな男のよく言うセリフを引っさげ、今日も海と空を行き来する。

その姿を、海岸でひとりの男がじっと見つめていたという。彼はふいに、手帳に情景を書き留めた。今から100年以上前の話さ。
ファンタジー
公開:18/04/25 00:18

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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