貝の音、島の声

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航海の途中で私は小さな島に立ち寄った。島に住む人々はとても親切にしてくれた。
島を離れる日、特に仲良くしてくれた島の女性が私に一つの貝殻をくれた。
「この貝殻に耳を当てれば、島の声が聞こえるわ。私たちを忘れないでね」
女性はそう言って私の手をぎゅっと握った。
私は本土に戻ってから、折に触れてその貝殻を耳に当てた。貝殻からは穏やかな波音が聞こえ、時には島の人々の笑い声も聞こえてきた。
しかしある日、私が貝殻に耳を当てると、荒れ狂う嵐の音が聞こえた。私はすぐにあの島に向かった。
本土からあの島へ向かう船の中で、船頭から「あの島は大きな嵐に見舞われ、島民は皆、海に還った。傷ましい事だ」と聞かされた。
島につくと島民は一人も残っていなかった。家々はなぎ倒され、木々は吹き飛ばされている。誰もいなくなってしまった島で、私は貝殻を耳に当てた。
島が泣いている。そう錯覚したが、泣いていたのは私であった。
その他
公開:18/04/23 01:02
更新:18/04/23 01:08

小狐裕介

ショートショートを書いています。
光文社文庫「ショートショートの宝箱」に「ふしぎな駄菓子屋」収録。
学研プラス「名作転生 主役コンプレックス」に「マンホールの女神様」収録。

Web光文社文庫「SSスタジアム」に 「街針」という作品が掲載されています。

作品集「狐の与太話」をKDPにて出版中。

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ブログ「会社員小説作成日記」http://foxconcon.com
 

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