彼とコーヒー12

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幼い頃、彼はものすごく多感で、事故のニュースを見ると涙が出たらしい。辛かったことや乗り越えたこと、いろいろな話を聞いた。
「人生、なにかと不幸はやってくるものだから。せめてそれ以外は楽しもうと俺は思うね。今を味わい尽くさないと!」
だから君も存分に俺を味わい尽くしてくれ、と彼はいたずらに笑う。すこし間が抜けて、私は復唱する。
「今を味わい尽くさないと」
真剣に言いすぎたのだろうか。義務的になるのはかえってよくないから気楽にね、と言って、彼は可笑しそうに眉を下げた。昔から真面目だねと言われると悲しくなってしまうのだけれど、それは素晴らしくいいことだ、と彼は褒めてくれる。独立するものにとってはとびきりの長所だ、と。
彼の世界に触れて、私の言葉の輪郭が形を変えてゆく。やわらかく、弱々しく、したたかに。私は、今の私の言葉が、人生でいちばん好きだ。きっとこれからもどんどん好きになる。そんな気がした。
その他
公開:18/04/14 17:59
短編 ショートショート 小説 400字物語 一話完結 各話完結 連載

yuna

400字のことばを紡ぎます。

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