こども心の点滴

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会社での人間関係に疲れ、家での家族関係に疲れ。
遂にはストレスで倒れた私に処方されたのは、『こども心』の点滴だった。
相手の真意を推し量り続けた僕の心は、疑心暗鬼で凝り固まっているらしい。
『こども心』はそれをほぐしてくれるのだと、白髭の医者は得意気に言った。なんでも、彼の発明なのだとか。

変化は、点滴をはじめてすぐに訪れた。
世界が明るくなったのである。
くすんで見えていた空が、草木が、子供の頃の輝きを取り戻していった。
次なる変化は、会話の中に訪れた。
本音のノイズが聞こえなくなったのである。
聞こえるのは、口から発せられた音だけ。
点滴が落ちる度に、心が軽くなっていくのが分かる。
最後の1粒がぽちりと落ちたとき、心はすっかり晴れやかになっていた。

さて、支払いをしなければ。
そう思い立ち上がった時、
「おだいはちょこれーとになります」
と書かれた紙が、ひらりと舞った。
ファンタジー
公開:18/04/08 19:38
更新:18/04/09 13:18

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