彼とコーヒー6

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彼が貸してくれた本を、私は一日かけてじっくりと読んだ。小説を誰かに借りて読むことなど今までになかったので、ドキドキした。ここから何かを汲みとることができるだろうか。

一言でいうと、とてもよかった。だいたい私はいつもこうなのだ。物事を全体の感じで把握している。なので、小学3年生の感想文のようになってしまう。これを彼にどう伝えよう、と思う。衝撃を受けた場面や、心が動いた場面を思い出しながら、私はスマートフォン越しに彼と向き合う。なんとか文章になったけれど、もどかしさは消えてくれない。もっと、ちゃんと、あるのに。文字というのはどうしてこうも薄っぺらく映ってしまうのだろう。そう思ってから、あ、薄っぺらいのは私か、とわかった。事実、彼から返ってきた文章は、私には実現不可能な豊かさをもっていた。

人は自分の無力さを知って、やっと、スタートラインに立てるんだよ。私はコーヒーを淹れ、そのことを考える。
その他
公開:18/04/09 18:03
更新:18/04/09 21:28
短編 ショートショート 小説 400字物語 一話完結 各話完結 連載

yuna

400字のことばを紡ぎます。

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