ものさし専門店

「はい、うちはものさし専門店です」
聞き間違いかと思ったがどうやらそうではないらしい。文房具店だと思ったそこはものさし専門という変わった店だった。
ものさしに困ってはいなかったのだが、物珍しさから俺は店内をぶらり見て歩くこととする。店内にはずらりとものさしが並べられている。有名なメーカーの物から海外製の物まで多種多様な品揃えだった。
そのうち、隅のほうにあるものさしの陳列棚にまでたどり着いた。
「そちらのシリーズは価値観のものさしとなっています」
商品説明には、社長のものさし、子どものものさし、女のものさし、などと書いてある。
「価値観とは基準ありきのものであり、その基準は謂わばものさしです。残念ながら人間は自分の基準に拘泥してしまいがちです。自身の物以外のものさしを持つことがどれほど大事なことか！」
ものさしをよく見ると、なるほど確かに、それらの度はてんでばらばらであった。