星に願いを

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 もう回収は不可能だった。
 宇宙ステーションの爆発からかろうじて難を逃れた科学者たちが避難したモジュールは、ステーションから切り離されて加速を続けている。
 姿勢制御用ガスを噴射させ、なんとか元の軌道に戻す手段を講じてきたが失敗に終わった。
 このままでは加速しすぎて地球の軌道から離れ、外宇宙へと飛び去ってしまうだろう。
 管制室には宿舎から呼び出された家族が集まってきていた。その中で、東洋系の少年が7月初旬だというのにクリスマスツリーのようなものを手にしていた。季節外れな上、オーナメントの代わりに色紙が吊るされている。
 母親に尋ねると、色紙には新しい星を発見して自分の名前を付けるという少年と父、二人の願いが書かれているのだという。
「君の父さんの方が先に夢をかなえてしまうかもな」
「だったら僕は父さんよりもっと遠くに行って星を発見する」
 私は小さな決意に震える少年の肩を強く抱いた。
SF
公開:18/06/17 21:41

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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