白紙の短冊

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あの日から、三年目の七夕。

息子も中学生になった。
軒下にある笹の葉には、赤、青、黄色、三枚の短冊が揺れている。
【妻が幸せでありますように】
【母さんが幸せでありますように】
と白紙。
「他に、願いごとないのか」
「父さんだって」
「母さん、なんて書くかなぁ」
妻は、あの星のどこかにいるのだろうか。

三年前の朝「いってらっしゃい」と笑顔で俺たちを見送り帰宅する前に、帰らぬ人となった。
「母さん、俺らのことばっかだったな」
「短冊もそうだったね」

白紙になれ。

それは、三人の願いなのかもしれない。
もしも願いが叶うなら、もう一度、白紙に戻してほしい。もう一度、三人の幸せを綴っていきたい。

今年も、やっぱり星がぼやける。
時間が解決するなんて嘘だ。この悲しみは消えない。家族だから。

風鈴が鳴った。それは妻が俺たちに優しく語りかけるようだった。

息子と二人、同じ星を見ていた。
その他
公開:18/06/16 22:31
更新:18/12/30 02:12
七夕 短冊 願いごと 家族

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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