あいつの動線

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二階の窓からぼんやり外を眺めていると、三河屋の三郎太が自転車で通り過ぎていくのが眼下に、いとも容易く確認できてしまった。
それは、地球という病み肥えた球体を輪切りにせんとするような野心はおろか、私の視界を等分する意思すら感じさせない、端的に言って、今まさに平和の極みに達さんとする動線の記録でしかなかった。
「口にしまいと思ってたけど、やっぱり言わせてもらうよ。正直退屈だよ、君」
そうして、おもむろに自室に据え置かれた自動販売機で、まるで憎しみの釜で加熱されたかの如く異常に熱い缶コーヒーを買い、当然のように、いや、半ば予定調和のように焼いた舌で、判然としない文言を呟いた。
「他者は無論、この世界に願うことなど、あろうはずもない」
とりあえずそれで、諸々良しとした。
すると、今度は逆方向から、三郎太が元来た道を戻っていった。
一体、この短時間に何ができたというのだろう。
青春
公開:18/06/15 00:21
更新:18/06/15 01:02

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