幻想動物見聞録・龍臣の場合

夜中にピアノの音が聞こえた。グランドピアノが奥底から感極まるような演奏だ。私は確かめなければならなかった。私以外誰もいないこの家で、そんな演奏をするのは誰かをね。もうお分かりだろう、私の目は生まれつき光に極度に弱い。満月もサングラス越しにしないと見れないほどね。側から見るとそれは不幸みたいだが、別に暗闇でも一人で歩けるよ。階下は青い天鵞絨のような月明かりだ。そんな中、見えないなにかが『月光』を弾いている。本当なら怖がるべきなんだが、腕が疼いてね。連弾に加わってみた。誰かとピアノを弾くのは楽しいものだね。私の心に棲みついた孤独が、連弾を始めたあの夜からはずっと慰められてるみたいだ。
先生には想像もつかないだろうが、暗闇と音が私の世界だった。だから正直、手術が怖い。家族には言えたものじゃないがね。
先生、目が見えるようになっても、アレは来てくれるだろうか。そればかりが気がかりだ。