星の子ども

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七夕の夜、その男はいつの間にか部屋の中にいた。
窓際においた一枝の笹につるした短冊を眺めている。
「誰?」
僕が聞くと、男は自分の口に指をあて「しっ」とやった。
すると僕の声は壊れた楽器みたいにスカスカの空気しか出なくなった。
男の目は宝石のルビーのように真っ赤だった。
だけど不思議と怖くなかった。
僕はその目を美しいと思った。
「ありがとう」
男が言った。
どうやら僕の頭の中がわかったっぽい。
 ねえ、ここで何してるの?
「願い事を集めているのさ」
男が短冊をひらひら振ると文字だけがぺらりとはがれ、男の持つ透明な壜に落ちた。
文字はその中をぐるぐる飛び始め、白、黄、青、赤とまるで蛍みたいに光った。
 それは何?
「星の子どもさ」
そう言って男は消えた。

あの時「宇宙飛行士になりたい」と書いた願い事。
それが今もあの空で輝いていると思うと、僕は何だかとても誇らしい気持になるんだ。
ファンタジー
公開:18/06/12 13:18
更新:18/06/17 09:43

杉野圭志

元・松山帖句です。

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