家人の恋

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「行ってしまいましたね」
鵲鳥の飛影を見送りながら、私が呟くと、
「そうね」
織姫様も、天ノ川を見つめながら、ぽつりと答えた。
彦星様との年に一度の逢瀬が、終わった。主は、また長く辛い不在の日々に堪えねばならない。
天帝様がふたりの別離を命じた時、姫の嘆き様は凄まじかった。食事は喉を通らず、夜は濡れ枕で眠れない。
娘の憔悴ぶりに慌てた天帝様は、いつも気にかけてくれと、私のような家人に頼む始末。
ならば逢わせてあげれば良い、と思うのだが、そこは譲れないらしかった。
とはいえ、私は内心舞い上がった。憧れの姫君と親しい仲にも成り得るか、とまで考えた。
いまや一生披露できない笑い話だ。例え私が美しい貴公子であっても、姫の心に入る隙間など、一分もないのだから。
年にたった一日。しかし姫の瞳を見れば、思いは益益深まるようで。
「かなわんなあ」
今年も嘆息がこぼれる。
主は、まだ川向こうを見つめている。
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公開:18/06/12 23:40

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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