七夕列車

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「今日は一緒に沖まで行こうな」
麦わらに短パンの、いかにも人の良さそうな父が言った。
「嫌」
「どうして?浮き輪つけるから怖くないぞ」
「絶対嫌」
「どうした?海に行きたいって言ったからこうやって列車乗って」
「そんなこと言ってない!私、海、大嫌い!」
「どうした急に」父が困った顔で言った。
「ねえ」私は父に懇願した。「もしも海で人が溺れていても絶対に助けになんて行かないで」
一瞬強張った父の顔がすっとほどけた。
「助けるより助けないでいた方がずっと辛いさ」
黒縁の眼鏡の向こうの目はあの時のまま、とても優しい。
「いい加減、友だちと海に遊びに行きなさい」
「無理よ」
「これはパパからのお願いだ。それに」
・・何よ。
「パパとママが出会ったのも海だったから」
滲む視界の先に父はもういなかった。
七夕。故郷に向かう夜行列車。
夜の空に張り付いて動かないはずの星河が滔々と流れていた。
ファンタジー
公開:18/06/12 21:14
更新:18/06/17 09:48

杉野圭志

元・松山帖句です。

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