ボディビルダーの夏

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焦げ茶色の肌。ひび割れた肉体。突然の異変は、そんなボディビルダーの頂点を決める会場で起きた。舞台上で肉体美を披露していた彼らが、妙なことをしはじめたのだ。すなわち、会場の壁におもむろによじ登りだし、そのまま動かなくなったのである。
観覧に訪れていた者たちは、何が起こったのか分からなかった。パフォーマンスの一種だろうか。が、そうこうしているうちに控室からも次々と他の出場者が現れて、同様に高みへとよじ登っていってじっと止まった。
やがてさらなる変化が訪れた。固まったボディビルダーの背が割れて、中から何かが出てきたのだ。それは白く、天使のようだった。彼らは蝉のように羽化したのである。
その白い身体はやがて茶色に変わり、そしてそのまま手にした羽で飛び立って、次々と外に出ていった。

今年の夏はやけに蝉の声がうるさく感じるのは、彼らが加わったせいに違いない。猛暑なのも、その暑苦しさが原因だろうか。
その他
公開:18/06/10 22:27
更新:18/06/10 22:30

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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