的屋の願い(土曜夜市その参)

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七夕のせいか、こんな俺でもいい人が出来たらまともな仕事に就いて、なんて夢みたいなことをつい考えちまう。
「あ、また捕れた」
浴衣の女の手持ちのカップは掬った金魚で溢れかえっていた。
女が無邪気に笑う。
こんな笑顔見せられて嬉しくない男がこの世にいるか?
金魚屋台始めて10年、今年は平和だ。夜市と七夕が合わさると神様がいろんな奴の願いを聞いちゃうのか碌なことが起きねえ。手足が生えた黒出目金が現れたり浴衣着た子猫が金魚掬いに来たり。
水槽を覗き込む浴衣の女のうなじに目が行った。
もしかして今年は俺の願いが叶う番だったりして。
その時、走って来た子どもがぶつかり女がたまらず水槽にバシャッと手を着いた。
「気をつけろ!」
俺はガキを叱った。
女の懐からはらりと落ちた短冊が水の上を漂っていた。
「七夕の願いは水によえーなあ。そんでお前、でかくなったな」
目の前で濡れた白猫がにゃあと艶っぽく鳴いた。
ファンタジー
公開:18/06/10 11:09
更新:18/08/10 17:38

杉野圭志

元・松山帖句です。

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