幻想動物見聞録・智也の場合

こんなこと言われても信じないと思いますけどね。子どもの頃から俺の近くに蝶がいます。見えないでしょ。でもいるんです。今もあなたの後ろでひらひら舞ってる。陽の光にかざせば燃えるように輝く、白く透明な蝶です。そいつがね、俺の手に止まると妙なことが起きまして。触ってたものが生き返るんです。と言っても、鮮度が上がるぐらいのもんですがね。子どもの頃は知らなかったから、飼い猫撫で繰り返して…もう20年経つのに元気なもんです。友人が焼肉屋経営してたんですが、悪い肉しか買えなくて大変そうだったから手伝いに行きましたよ。そしたら、俺の切る肉は美味いって評判よくて。当たり前ですよ、死にたての状態ですからね。
経営立て直した友人には悪いけど、辞めました。イキのいい肉なんか触ったら走り出しちまう。本当のこと、言えませんしね。
調理師もダメ、医者はまずい、事務職は素材に戻しちまう。
先生、俺なんの仕事なら出来るかな。