幻想動物見聞録・林蔵の場合

うちは長いこと質屋をやらせて頂いていましてね。年号を跨いで家業を継いでますと嘘みたいな話もあるもんで。昔、どうしても売れない絵描きの男がいたそうなんですが、なんとこの男、自分の龍の絵を質に入れやがった。勿論当時の先代は断ったが、この龍は欲しいものを出してくれるから金を用意するまで使ってくれってそう言いやがる。半信半疑で先代も絵を預かったんですが、それがもう本物で、刀でも宝石でも絵から出してくるから、先代は大層龍を気に入りました。絵描きに龍の絵を売ってもらうことにしたそうです。
次の年、先代の娘さんが心臓を悪くした。だから先代は龍に祈ったそうです。この娘に丈夫な心臓を、とね。
先生、何が起きたと思います？
先代が死んで、健康な心臓が絵から出てきたそうだ。
欲しいものをくれるんじゃない。どこかから借りてくる、そういう龍だった。龍も無い袖は振れないって話ですね。
勿論、手術は成功したそうですよ。