代生(だいしょう)

0
98

酒、賭け、女。家庭を省みず借金ばかり作っていた私はある日突然倒れ、医師から余命数日と宣告された。
子らはとうに家を出ていて、妻だけが傍にいてくれた。
最期を悟り、私が小声で謝罪を述べると、妻がふと、
「ねぇ、最後にひとつ、お願いをしてもいい?」
と尋ねる。
頷くと、彼女は嬉しそうに笑った。
ああ、もっと大切にしてやれば…。
妻が私の耳元に顔を寄せ、「お願い」を囁く。
その瞬間、視界が暗転した。

「…お母さん?」
娘の声に、私ははっと我に返る。
病室にはいつの間にか家族が集まっていた。
「大丈夫?…お父さんと最期のお別れ、したら?」
そう言って皆が脇に退いた先のベッド、そこに誰かが寝かされている。顔に白い布をかけられて。
震える手で布をめくり、息をのむ。
「……わたし」
自分の喉から絞り出されたのは、妻の声。
その旦那であった男が、してやったという満面の笑みで、穏やかに死の床についていた。
ホラー
公開:18/06/06 13:46
更新:18/06/06 13:48
ねがいごと 七夕コンテスト2018

詩のぶ

小説、詩、短歌、俳句、コピーなど、読んだり書いたりするのが好きです。ショートショートはこれまであまり馴染みがなかったので、ここで色々試しながら勉強できたらと思っています。
何か作るとtwitterで呟いてますのでよろしかったらそちらでも。

Twitter @shinobu_yomogi

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容